RENOVATION / NEW HOUSE / STORE DESIGN
パン・カリテNEW
兵庫県神戸市 2025 /Apr/ 10 updated六甲から神戸に続く山手の通り沿いに、ファサードがとても魅力的なパン屋さん『Pan Calite(パン・カリテ)』が誕生しました。ダークブラウンの木製ドアと立体的なデザインは、ブルーグレーの壁色と調和して、まるで以前からこの通りにあったような印象を受けます。行列に並んでいると大きな窓の向こうで忙しく動きまわってパンを焼いているパン職人の姿が見えます。
そのパン職人は店主である米山雅彦さん、元『パンデュース』のシェフ。20年前、オーナーとふたりで『パンデュース』を創業、パン職人・経営者として企業として成長させてきました。会社が大きくなるにつれスタッフはどんどん増えて、米山さん自身はパン職人としての役割より経営に携わる時間が増えていたなかでコロナ禍がやってきて、自分自身を見つめ直すことになリました。「そのまま経営者の役割を続けることもできるのだけれど、50歳を超えたタイミングで、“納得できる人生最終章“をつくりたいという思いが強くなったんです。そこで、自分ひとりでパンを焼いて経営として成り立つ” 持続可能なパン屋さん“を始めることを決めました」。
米山さんは、12年前のイベント出店をきっかけに当時まだ設計スタッフが一握りであったDEN PLUS EGGと出会いました。程なくして米山さんの妻Chaさんが新神戸のカフェ『トースター』をスタートすることになり、物件探しなどをサポート、店舗デザインにDEN PLUS EGGを勧め、2014年『トースター』がオープンして昨年10周年を迎えました。その後も、苦楽園で開催されていたDEN PLUS EGG蚤の市に「パンデュース」のパンを出店するなど、交流は続いていきました。
「個人店をつくると決めたとき、何の迷いもなくDEN PLUS EGGさんに店舗設計を依頼することも決めていました。彼らがつくり出す世界観を本当に好きで、自分が考えているデザインよりもっと素晴らしい店をつくってくれる確信があったからです」と米山さん。バス通りにあったスケルトンの物件を見つけるとすぐにでんにコンタクトを取りました。
「希望は『ファサードは木製、壁はグレーの色合いにしてほしい、アンティーク家具を使って欲しいぐらい』で、あとはおまかせです。その方が絶対に素晴らしいデザインが上がってくると思っていました」と、互いの信頼をベースにした店づくりが始まりました。
ファサードは、DEN PLUS EGGの店舗づくりを支える米山さんも顔馴染みの木工職人さん、ダークブラウンのオイルを重ねて塗ります。ファサードが完成したころに現場を訪れたDEN PLUS EGG代表は、塗りたてのドアをじっと見つめて「もう一回塗りましょうか?」と米山さんと職人さんに言った。そしてさらにオイルの重ね塗りをするとまるでアンティークのような風格が出てきたと言います。
「床は木製にしたいとだけ希望していたんですが、タイミングよくアンティークの床材が入ってきたと連絡があり、古材フローリングになりました。アンティークの家具や建材というのは出会いのタイミングや運に左右されることが多いと思いますが、ぼくは運が良かったのかも知れませんね」。
そんななか、1箇所だけ米山さんが以前から興味のあった美術塗装の専門家に依頼したのがレンガ壁。壁の前には小麦粉の袋が積まれていて、どこか外国のベーカリーのような独特の雰囲気が。一見使い込まれたように見えるレンガ壁は、美術塗装の作品だという。「DEN PLUS EGGさんが本物のヴィンテージ家具・建材しか使わず、絶対に“アンティーク加工”をしないことは以前から知っていました。それを承知の上で、無理を言って一部だけ美術塗装をお願いしました」という米山さん。古材の床、カウンターやバックカウンター、パンのディスプレイテーブルや棚、販売スペースとキッチンを仕切る壁も横置きにしたアンティークドア、すべて本物のアンティークのみで構成される店舗空間の一角にできた美術塗装のレンガ壁は、違和感なく溶け込み、『パン・カリテ』のイメージをかたちづくっていいます。
ところで『パン・カリテ』のメーミングはどこからきたのか尋ねると、「糧(かて)」という文字から。文字通りの糧としてのパン、拠り所としての存在、文字の中には米山の米も入っている。その糧をかつては「かりて」と呼んだこともあり、フランス語のqualité(品質の良い)の意味も含めて”パン・カリテ”となったそう。家族会議で決まったこのネーミングは、あえて日本語的なローマ字読み的なスペルとともに旧知のグラフィックデザイナーに渡され、親しみのあるロゴマークが完成。真鍮のショッププレートに刻印されています。
「担当のYさんは設計プランナーというよりアーティストだと思っています。ぼくは彼女のことを“画伯”と呼んでいます。お店が完成して最後にファサード上部のガラスにロゴをハンドライティングするとき、ものすごく小さく描いたんです。小さすぎませんか?と聞いたのだけど、これがちょうどいいという答えだったので、画伯のセンスを信じてそのままにしています」と笑う米山さん。かわいくちょっとだけ小さめにPan Caliteと書かれたロゴは、素晴らしいファサードにふさわしく、素朴な印象のロゴに品格をプラスしました。
「いま週に3日間の営業で仕込みに2日、普通の会社勤めの方と同じ週休2日ですね。基本的にパンづくりはすべてひとりでしていて、販売にアルバイトさんと家族が入ってくれています。体力的・経済的にひとりで“楽しく”続けていける人生最終章の形ができました。内装は自分の好みに合わせて想像を超えるデザインをしていただき、お客さんに喜んでもらえることはもちろん、何より一番長い時間ここにいる自分自身が気持ちいい。オープンして3カ月ですが、うれしいことにお客さんが途切れず充実した日々を送っています」と米山さん。“10年以上にわたる付き合いをもとに人生最終章の最高に気持ちいい場所をつくる”、DEN PLUS EGGの本質が『パン・カリテ』にありました。
Pan Calite(パン・カリテ)
神戸市灘区篠原本町3-8-23















