RENOVATION / NEW HOUSE / STORE DESIGN
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東京都 2024 /Sep/ 30 updated東京の中心地とは思えない静かなエリアにある一軒家、オレンジの瓦とグレージュの壁そして木製窓枠のウィンドウ、ハーブや緑が育つエントランスがひときわ目立っています。ここは、昼間はカフェ、夜は予約制のバーとなる、自宅を改装してできた知る人しか知らない本当の隠れ家です。
銀座で20年、ワイン中心のバーを経営していたY&T夫妻は、ビルの取り壊しによりお店を閉めることになり、次のフェーズを考え始めました。自分たちの年齢や大切にすることを見つめ直し、時代の流れを鑑みて、深夜までの営業ではなく、お昼の時間も活用できる店にしたいという気持ちに。
戸建ての1階という物件が決まっていたので、友人を介して建築家にプランをつくってもらったりもしました。ところが「そのプランは自分たちの希望を取り入れた過不足のない良いものだったのですが、予定調和というのかどこかもやもやする感じがして、しばらく立ち止まっていました」と奥さまのTさん。この場所が自分たちの最後の城になると考えたとき、そのもやもやをずっと持ち続けていいのだろうかと自問自答し、“もっと夢のある空間をつくりたい”という気持ちが強くなり、以前からウェブ検索でチェックをしていた、まったく面識のないDEN PLUS EGGに電話をかけて相談をすることに。「打ち合わせに入る前に書き込む“チェックシート”と呼ばれるものに、いま自分たちが考えている思いの丈をぜんぶ書きました。するとすぐにDEN PLUS EGGディレクターの吉田さんが代表の方と一緒に、この場所を見にきてくれたんです」とTさん。
それからの出来事は、ふたりにとってとても不思議な体験でした。元々の空間を見ながら、希望のレイアウトや作業に必要な動線、これまでの自分たちの足跡を伝え、その後に自分たちが好きなお店の写真をたくさん送ると、担当の吉田さんは、まるで心の中を読んでいるように、好きな色と好きなデザインをピタリと当てて提案をし、さらにハッとするアイデアと思いも寄らない斬新な提案をのせたプランが出てきました。その後も新しい提案を受けるたびにツボにハマり、最後にはすべてを受け入れ、やり取りを楽しんでいたと言います。
美しいブルーグリーンの塗装壁、同じようなブルーグリーンの光沢を持つ「ブルーグレー」のアルチザンタイル、その合間には木製のパネルを挟んでアクセントにして、床は3色(白、紺、ブラウン)のセメントタイルをモザイクに組み合わせたどこか遊び心のあるパターン。築50年の建物の耐震補強もプラスしながら、開口部のデザインを変更して空間を整えます。そうしてできあがった入口横の大きな窓は、カフェ営業時には日差しが入り込む採光の役割を果たすと同時に、カウンターの中からとカフェに座ったお客さんからは窓の外の緑が借景となってどこかのリゾートにきているような気分になる景色を見せてくれる重要な場所となりました。夜には、窓枠にリネンのフック付きカーテンをかけて目隠しをすることで、親密な店内の空気感を窓の外からほんの少しだけ感じることができます。
バーカウンターにはすべてヴィンテージ素材を活用。モールディングの美しいカウンター壁とイギリスの古材を使ったカウンタートップ、彫刻刀でついたと思われる傷が味わいを出しています。
ご主人のYさんは「DEN PLUS EGGさんのホームページを見ていて一番惹かれた言葉は“経年美化”です。ぼくたちも時を経て味わいを増すものが好きだから、完成時がピカピカのお店にはしたくなかったんです。このお店ができたとき、すでに時を経てきたかのような落ち着きがあり、とても気に入りました。まだ完成してわずかですが、好きなところしかありません」と教えてくれた。中でもYさんが気に入っているのは、お店がほぼ完成したころに急遽リクエストしてつくられたワイングラス用のキャビネット。隣接する建物に面する窓の一部を壁面にして、アンティークドアをつけた造り付けの食器棚。手持ちのグラスと新規のグラスの高さに合わせて棚板を調整、壁と同じ色で塗装されました。
「もう店がほとんどできあがっているのに無理を言ってお願いしたら、“じゃあここにつくりましょう”とあっさり場所を決めて素晴らしいアンティークドアを探してくれたんです。この棚以外にも、つくりながら変更したり追加したりして空間デザインをブラッシュアップしていく吉田さんの仕事を見ているのはとても楽しかったです」とYさん。
自家焙煎を始めたTさんのコーヒーは、中浅煎りを中心とした香り豊かな味わい。20年以上ワインを扱ってきただけにナチュラルとクラシックの両方をセレクトするワイン、料理はそのときどきの素材をさっと調理する、そして時にはそばも打つというマルチなおふたり。これから、ふたりにとっては新しい「カフェ営業」についてゆっくりと整えていきたいと話してくれました。