RENOVATION / NEW HOUSE / STORE DESIGN
YARD -ATELIER-
岡山県倉敷市 2024 /Jul/ 23 updated児島のものづくりの現場を見せるファクトリー
芝生を通ってオールドパインの両開きドアを開けると、天井とフロアが板張りの重厚感のある空間が現れます。右手に広がる高い天井のぬけ感のある円形スペースは、ミシンとマシンが並ぶ縫製ファクトリー、帆布のエプロンをまとったスタッフが熱心に作業をしています。大きな窓から入る自然光と高い天井に吊るされたヴィンテージライトの白い光が、無骨なデザインのミシンやアイロンがアクセントになったクールな空間を照らしています。ここは「ORDINARY FITS」ブランドを持つアパレル会社YARDのアトリエ兼ファクトリー、世界に知られるメイド・イン・児島のジーンズが手作業によって縫製されています。
「現代ではAIが発達して生地の作成と裁断は機械化が進んでいますが、AIをしても機械化できないのが縫製です。人の手を動かさなくてはできない縫製、その工場を自社で持ちたい、そしてその工場は『児島が誇る職人技』を知ってもらう見せる工場をつくりたいと考えました」と話すのは、YARD代表の児玉真さん。
児島は長くジーンズの名産地としてその名前を世界に知られています。YARDはこれまでも児島に拠点を置き、児島にあるさまざまな工場と連携をしてジーンズをはじめとしたものづくりを行ってきました。けれどいつか自社ファクトリーを持ちたいと考えていたとき、海岸線のマリンロード430に沿って建つ物件と出会いました。かつてイタリア料理店であった物件はどこか90年代の雰囲気を残す重厚な建物、内見した児玉さんはすぐにDEN PLUS EGGの代表に連絡を取りました。「この物件はDEN PLUS EGGに任せるしかない」と思ったそうです。
すべておまかせでデザインを委ねて誕生した重厚感のあるアトリエ&ファクトリー
児玉さんがDEN PLUS EGGを知ったのは、渋谷区の『outil』のアトリエを訪問したとき。かつてともに仕事をしていた『outil』宇多さんにアトリエができたと聞いて訪ねたとき、日本国内ではあまり感じたことのない「重厚感」を感じたと言います。児玉さんが感じた重厚感とは、「壁やドアなど建物のすべてにおいて中身がしっかりと詰まっている重量のある感じ」で、児玉さんにとって日本の建物はどこかペラペラとした印象があると教えてくれました。『outil』のアトリエは、モルタルで仕上げた壁と床、一枚板を素につくられる英国のヴィンテージ防火ドア、加えてフランスの工場で使われていた大きい照明、図書館で大量の本を支えていたアイアンシェルフなど、重量感のある素材が多用されていて、そのどれもが日本ではあまり使われていないアイテムで、どこかヨーロッパの隠れ家アトリエのような分に気を醸し出しています。その空間を感じながら、自分のファクトリーをつくるときはこんな風に重厚感のある空間にしたいと考えていたと言います。
このように、まだ物件と出会っていなかったときに漠然と考えていた「重厚感のあるファクトリーをつくりたい」とデザインを依頼して、提案されたプランを見たとき、コラージュされたイメージや手描きのパースがすべてイメージ通りであったため、詳細はすべておまかせで進行することを決めました。そうしてできあがったファクトリーは、児玉さんが希望する重厚感とDEN PLUS EGGの設計の持つ軽やかさが混じり合い、風通しのいい明るい空間と本物のアンティークや上質な建材が持つ落ち着きのバランスが取れた、空間となりました。
劇場型ファクトリーの完成
糸くずが出るので掃除がしやすい床材、布製品を扱うので縫製スペースは土足禁止などの必要な機能を持たせるデザインとしてできたのが、縫製スペースの床面が一段高くなった劇場のような空間。“縫製劇場空間”の周りはぐるりと一段低い回廊になっていて、その壁面はシェルフ&引き出し収納、海外の図書館のようなアイアンの可動式はしごが設えられています。
回廊の奥にある元のキッチンはあえてそのままキッチンとして活用することに。使いやすくデザインもいいオリジナルキッチンをつくりました。キッチン脇の道具入れスペースは、ワインセラーになりました。海外からのゲストをもてなすときやフードイベントをするときにキッチンが役立っています。
縫製工場スぺースとキッチンの壁には大きなヴィンテージのアイアン室内窓を取り付けて、キッチンから”縫製劇場”の様子を眺められる構造に。ここからの眺めはどこかシネマティックで、映画のワンシーンを見ているような光景です。
入り口左手は、アトリエスペース。古材をヘリンボーン貼りにしたフローリングの広々とした空間に大きなテーブルが置かれ、全面ガラス窓から心地いい光が差し込んでいます。
アトリエに隣接してショップがあります。元々は物置で光が入らない空間だったのですが、扉部分の両サイドの壁をウィンドウに変更して採光を確保、ブラックのヴィンテージドアをつけました。店内には大きなヴィンテージのドロワーとテーブルが置かれてステキなショップとなり、全国の関連ショップとコラボした展示イベントなどを開催できるように活用されています。
ファクトリーができて生まれた新しい夢
「ぼくが気に入っているのは、アトリエからショップにつながる余白のような空間です。ヴィンテージの木の棚と薄いブルーのようなグリーンのような壁の色がすごく合っていて見るたびにいいなあと思います」とすべてのデザインを気に入っていると言いながらお気に入りの場所を教えてくれた児玉さん、次の展開として頭に思い浮かべていることがあると話してくれました。
「ファクトリーが完成して1年半が経ち、おかげさまでこの場所で働きたいと応募してくる人も増えています。この縫製ファクトリーにはもう昔みたいな暗いイメージはないんです。クラフトマンシップを生み、職人技を身に付け、自信を持って仕事ができる場所であって欲しい。ここで人材が育ったら、アトリエスペースを、ヴィンテージ・ミシンを備えたヴィンテージ・デニム専門の縫製アトリエにできたらと考えているんです」。
YARD -ATELIER-
岡山県倉敷市児島小川町3681-13