RENOVATION / NEW HOUSE / STORE DESIGN
CLEHA coffee & tea room
京都府京都市 2023 /Jun/ 17 updated「いい意味で“素っ気なさ”を大切にしたかったんです」という京都のコーヒー&ティールーム『CLEHA(クレハ)』の佐野亮介、亜也加さんご夫妻、「素朴でシンプルなアジアの部屋のインテリアや雰囲気をもった雑貨屋やうつわ屋のような店づくりのイメージを持っていたんです」と話してくれました。お店は、京都の北野天満宮の近く、風情のある京町家の並ぶ細い路地を入った老舗中華料理店『糸仙』のはす向かい。のれんのかかった町家の佇まいは、もうずいぶん前からそこにお店があったような風情を感じさせます。
ふたりのお店づくりは、そのスタートがとてもユニーク。大阪市内の異なる個性的なカフェで働いていたふたりは、それぞれの経験を生かしていつかお店を開きたいと考えていました。「わたしが彼を誘ったんです」と切り出したのは亜也加さんでした。亮介さんは驚いたものの「お願いします」と即答したのです。彼女が切り出してくれたことで決心がついたそうです。そこでふたりがまず初めにしたことは徹底的な自己分析。互いの好きなこと、苦手なこと、うれしかったこと、つらかったこと、人生の転機などをひたすら紙に書きだして、話し合ったといいます。「苦しい時間でしたけど、お互いのことを新しく知ったことも多かったのでとてもよかったです」と亜也加さんは振り返ります。このことが、後にお店づくりに大きく生きていくのです。お互いをよく知ることで、“人と話したり、おもてなしをしたりという接客が得意な亜也加さん”と、“うつわや古道具などが好きな亮介さん”という、言わばソフトとハードがひとつになったいいチームができあがったことに気づきました。
京都の町の雰囲気が好きで、前の職場にいたころから何度もふたりで京都に来ては、いろいろな通りや路地を歩いてこの一軒の町家に運命的に出会いました。『DEN PLUS EGG』を知ったのは、自分たちが好きなお店、京都の喫茶『SICOU』や東京の紅茶専門店『TEAPOND』の設計を手がけていたからでした。ホームページでほかのお店の施工事例を見て、その良さをさらに確信し、設計を『DEN PLUS EGG』に決めました。最初にオフィスを訪れた日には、すでに物件も決まりオープン希望日までのスケジュールがかなりタイトだったのですが、ふたりは打ち合わせを終えて安心しました。「DENさんがよかった点は、まずレスポンスが早く的確で、すべてにすぐに答えてくれ、かつ心配りが細やかだったんです。ほしい資料や見本もすぐに集めてくれました」とふたりは口をそろえます。しかも最初の打ち合わせが、築100年を超える京町家のオフィス『DEN PLUS EGG KYOTO』だったこともよかったのです。「和と洋を組わせていてカッコよくて、やられたなと思いました」と亮介さんは笑います。
最初にあがってきたパース図からは最終的にいくつかプランは変更となりました。「いろいろと削ったけど膨らんだ。そんな感じです。希望内容には予算的に実現不可能な部分があることも分かったし、逆にそんなこともできるんですか、ということもわかって」と亮介さん。例えば、床にはセメントタイルを貼りたかったのですが、予算的に諦める事になりました。このことで「自分でも“素っ気なさ”について改めて考えましたし、DENさんが我々の思いをよく汲んで、深く考えてくださいました」と亮介さんが回想するように、結果的に床はモルタルのままにしました。ところがそれが当初からイメージしていた“素っ気なさ”を見事に表現することになったのです。またファサードにアンティーク扉をつけたいと考えていましたが、元の入口を生かして壁や引き戸を塗り直すだけにとどめ、入口の通路に貼られていたクラシックリブの腰壁も、DEN PLUS EGG担当Mさんからの提案で、そのまま上から白く塗装し直すだけにしました。するとすべてがうまく調和して、不思議とどこかアジアのお店のようないい雰囲気に仕上がりました。「言いにくいこともとことん全部伝えて、もうすべて甘えようと思いました」というふたりは、最初に自分たちが行なった自己分析のように、感じていること、思っていることをすべて包み隠さずに話し、それを受け止めたMさんが最大限の形で提案するというやりとりが続きました。「一緒にいいものをつくろうという感じになったんです。Mさんはいつも楽しそうに話を聞いてくれて、すべて肯定してくれて、心動かされました」と亜也加さんは振り返ります。
亮介さんがとくに気に入っているのは入口右の壁に設えられたアイアン格子の室内窓。DEN PLUS EGGがイギリスで買いつけたアンティークです。お店の中心には、モールディングを施したダークブラウンのオーク材を使ったオリジナル造作のL字カウンターが据えられました。オーブンの後ろには、亮介さん希望の「オールド香港をイメージしたシックなブルーグリーンのタイル」を貼り、トイレの扉も同系の色を採用、町家らしい濃い茶色と白い壁が持つベースの空気感に、いいアクセントを加えています。DEN PLUS EGGの空間デザインと、和食器や和箪笥、ランプなどが美しくマッチし、アジアのコロニアルな雰囲気が生まれてきました。特に、店の奥から見る、通りに面した窓と椅子の背もたれのシルエットは、さながら映画のワンシーンのようです。「ここに女性のお客さんが座ると後ろ姿がとても美しく見えるんです」と亜也加さん、「お客さんも一緒に世界観をつくってくださいます」。のれんやショップカードは、デザイナーである亮介さんのお姉さんが手がけ、『CLEHA』の繊細なイメージをフォントに落とし込みました。
『CLEHA』のおすすめメニューはクリームティーセット(コーヒーまたは紅茶とスコンのセット)。特にコーヒーがとてもユニークで、浅煎りのコーヒーをネルドリップで落とします。ほかに“ポットブリュー”と名づけられた、紅茶のようにポットで淹れてサーヴする独自のコーヒーもあり、まるで紅茶のような優しい香りを味わうことができます。スコンは2種、玄麦からその場で粉に挽く全粒粉ときめ細やかで繊細な小麦粉を使うプレーン、自家製のジャムを添えて。さらに紅茶はDEN PLUS EGGを知るきっかけにもなった『TEAPOND』のものを使っています。おふたりともコーヒーや紅茶を淹れ、お菓子を焼くそうです。
のれんをくぐると、ゆっくりとした時間が流れ、エキゾチックなアフリカの民族楽器コラの優しい弦の音色が聴こえてきました。そしてカウンターの中では、バンドカラーの真っ白なシャツを着たふたりが並んで、今日もゆっくりとコーヒーを落とし、スコンを焼いています。
※CLEHAではスコーンのことを「スコン」と表記します。
CLEHA coffee & tea room
京都市上京区今出川通七本松西入真盛町729-12