RENOVATION / NEW HOUSE / STORE DESIGN
HORAIYA
東京都渋谷区 2022 /Dec/ 08 updated
カリふわ食感のミニバゲットに生ハムとカマンベールチーズをはさんだサンドイッチはシンプルながらも味わい深く、ドリップしたてのホットコーヒーととてもよく合います。神宮前2丁目の商店街から少し入ったところに、サンドイッチとコーヒーの店『HORAIYA』はあります。店名の由来は、ご主人の実家である別府の老舗乾物屋『宝来屋』から。
オーナーの河野寛史さんとグラフィックデザイナーでお店のロゴも手がけるともみさんご夫婦は、いつか実家の『宝来屋』をからめて、別府と東京をつないで新しいことをしてみたいと話していました。以前、寛史さんが千駄ヶ谷のコーヒーとパニーニのお店に勤めていたこともあり、ふたりはサンドイッチとコーヒー、そして実家の乾物を扱うお店を開くことに決めました。
DEN PLUS EGGとの出会いには不思議な物語が。ふたりが通っていた神楽坂の『AKHA AMA COFFEE』の内装や雰囲気がとても気に入っていて、設計会社を調べてみたところDEN PLUS EGGの名前が出てきたのです。偶然にもそのオフィスは寛史さんが働いていたお店のすぐ近くで、DEN PLUS EGG代表は常連のお客さんでした。不思議な縁を感じ、いつものように来店した代表に、店舗設計を依頼できないかと尋ねました。答えはOK、すぐに新しいお店づくりの相談が始まりました。
ふたりが見つけた物件は約6坪の元老舗喫茶店。限られた空間の中でどのようにキッチンや客席、カウンターをつくるかが重要なポイントでした。最初の打ち合わせには、これまでに集めた店舗の本や写真、ともみさんが描いたイラストなどを持参、実現したいことを具体的に話しました。
まずは、お店の入口脇に縁側的ベンチを造作して店の内側と外側の両サイドから座れるように、仕切り窓はヨーロッパの列車の窓のように上下に開き解放感を出したいというイメージを共有しました。ベンチの内側は奥に行くほど広くなる台形にして設えることによって、入口付近に広さが生まれました。次はどのようにカウンターを設置すれば6坪の店内で使いやすさと居心地のよさを両立できるかが大きな課題。提案は、L字の角を面取りするように斜めに冷蔵ショーケースを設置、その上で注文やお会計をするというアイデアでした。この斜めカウンター&ショーケースがお店の軸となって、レイアウトが決まっていきました。
内装についてのイメージとして、外観は解放感があり、内装はヨーロッパの旧市街の石畳を抜けた奥にあるお店のような雰囲気というのがおふたりおの中にありました。壁のタイルは、古き良きヨーロッパのイメージで、マーメイドのアルチザンタイル、床は南ヨーロッパのようなレンガ色のセメントタイルに決めました。カウンターには、かつてイギリスの小学校で使われていた長机の一枚板の古材が持ち込まれました。板の表面に子供たちが、勉強したり遊んだりした痕跡がたくさん残り、TRACYと彫った跡まであり、たくさんの子どもたちがここで学んだ机の軌跡に思いをはせることができます。その味わいのある古材の一部は、天井に近い吊戸棚の正面板にも使われました。
カウンターの奥のパントリーを抜けると店の奥に、ペパーミントグリーンのアンティークの木製のドアが見えます。その扉を開けて驚きました。そこは壁一面を黄色に塗られたトイレでした。いろいろな国の要素を集めてお店にしたいという表れのひとつで、このトイレはメキシコがイメージの根底にあるそうです。
オリジナル什器もいろいろとオーダー。中でもお気に入りはスコーンがディスプレイされているオーク製のショーケース。大きさや形など、ともみさんの希望を叶えてくれました。入口の真鍮の看板や、表通りの看板などもすべてDEN PLUS EGGオリジナルオーダー製品です。
今回とてもよかったことは、ともみさんとDEN PLUS EGGスタッフYさんが、お互いの感覚やインスピレーションが近かったこと。最初から意気投合し、「そうそう。そうでうよね」と言葉では伝えにく感覚を共有して、互いにアイデアを出しながら進めていくことができたことです。ふたりのアイデアやイメージをYさんに伝え、それをより膨らませて新たな提案をしてくれることを繰り返し、次々と新しいアイデアが生まれていきました。「思い描いていた個人の夢物語を実現してくれたんです」とともみさんは振り返ります。
朝8時半からオープンするお店には、平日は仕事前のモーニングやコーヒーを求める若い人たち、休日は親子で散歩がてらにサンドイッチを食べにくるファミリーやカップルなどでにぎわっています。ベンチの横の物販のコーナーには、大分のコーヒー豆と一緒に、実家の『宝来屋』の海苔や切干大根、干ししいたけや醤油が並んでいます。実はサンドイッチの具材にもこの乾物が使われています。
お店をオープンして早一年。近くのアトリエとのつながりから好きなフォトグラファーの作品を手に入れて店内に飾ったり、サンドイッチを求めて来店するさまざまなお客さんとの会話を楽しんだり、訪れるクリエイターたちとの交流を深めたり、“町のホットステーション”になれたらうれしいという開業当時のふたりの気持ちをはるかに超え、町になくてはならないコミュニティ・スポットとなっています。