RENOVATION / NEW HOUSE / STORE DESIGN
Boulangerie du Desir
東京都世田谷区 2022 /Sep/ 19 updatedアーチをつけた曲げ木のファサード。大きな窓にはLee Izumidaによるグラフィティアートがペイントされ、床は明るい色の木材でフレンチ・ヘリンボーン貼り。いまはまだできたてで白木のクリアな印象が強く残っていますが、時間を経ると落ち着いて味わいを増していくオイルフィニッシュ仕上げの栂(ツガ)を使用。外壁には淡いピンクのアルチザンタイルを長方形にカットして施工、明るい木の色と調和して、親しみやすい町のパン屋さんとして通りに溶け込んでいます。キッチンとショップをつなぐ室内窓は、オレンジ色の棚をアクセント的にはめ込んだデザイン。そのうち4面は黒板になっていて、チョークでその日のおすすめパンの絵を書き込めるようになっています。
ショーケースはすべてアンティークの家具、丸みを帯びた大きなショーケースには、毎日スペシャリテがずらりと並びます。アンティーク土台に真鍮枠で特注したガラスケースには、定番人気のクロワッサンと月替わりのパイが美しくディスプレイされています。
ここは、食品企画&コンサルティング会社が初めてつくった直営店『Boulangerie du desir(ブーランジュリー・デュ・デジール)』。昨年12月世田谷の住宅街に誕生した「理想のパン屋さん」という意味を持つ町のパン屋さんです。オープン時間になると開店を待つご近所さんが訪れ、開店と同時に手慣れた感じで好みのパンをさささっと買って行きます。まだ半年ほどのお店なのに長年の常連さんがたくさん。不思議に思ってディレクター佐々木さんにお話を聞くと、「この場所はもともとパン屋さんだったんです。引退されてお店をたたまれるということで、わたしたちの会社でキッチンとして活用させていただこうと場所を引き継ぎました。けれどやはりパン屋さんを引き継ぐことが大切ではないかという気持ちが社内で芽生え始め、するからには“理想のパン屋さん”をつくろうという流れになりました。腕のいいパン職人さんを尋ね、店舗設計の会社を探し、約2年かけて理想のパン屋さんをオープンすることができました」と話してくれました。
店舗設計について相談をしたのが千駄ヶ谷『コンカ』のオーナー・オサキさん。「ときどき訪れていたコンカの内装が素晴らしくて、惚れ惚れするようなアンティーク扉や全体の雰囲気がすべて好きでした」という佐々木さん、相談をするとすぐにDEN PLUS EGGを紹介され、担当者Yさんと打ち合わせが始まりました。
「パリの老舗のブーランジュリーが、ニューヨークに出店する」というイメージコンセプトで、古いものと新しいものが融合した居心地のいいお店にしたい。アンティークと現代アート、そしてオーナーの好きな色オレンジを取り入れた店内をリクエストしました。
担当Yさんが提案したプランを見ながら、打ち合わせを重ねるうち、ブーランジュリー・デュ・デジールのパンのセレクトや基本の考え方も進化していき、修正を重ねて現在の店舗となりました。
「完成して引き渡されたとき、正直言ってプレッシャーを感じました。この空間をどう生かすのかが使う人に委ねられている部分が多く、何か大きなバトンを受け取ったような気持ちになりました」と言う佐々木さん。
オリジナルショーケースのパンの晴れ舞台は、季節のフルーツをたっぷりと乗せたデニッシュ。寺島シェフがアイデアを凝らして月替わりで登場します。この佇まいに仕上げとしてつくったのが値札。福島にある紙の工房で、手すきで一枚一枚つくってもらった和紙のカードに、活版印刷でロゴを入れて丁寧に作られたもの。値札のためのスタンドは真鍮製のものをそろえました。前のパン屋産から引き継いだ場所とDEN PLUS EGGから渡されたバトンに、自分たちの思いを乗せていくことを続けていきたいと話してくれました。
小麦は北海道産を中心に最近新しく取り扱い始めた九州産のものを少し、バターや乳製品はオーナーの出身地である北海道にある縁の深い「山中牧場」のもの。そのほかフルーツやたまご、砂糖などすべての素材が自然志向の小さな生産者ものを使用、じんわりと滋味深い味わいのパンが並んでいます。愛日お店に立つシェフと店長が、おいしいパンとそれをとりまくたくさんの小さな思いを届けています。
Boulangerie du Désir
世田谷区代田1-35-13 殿塚ビル1F