RENOVATION / NEW HOUSE / STORE DESIGN
機能とデザインを両立したリノベーション
神奈川県横浜市 2021 /Jul/ 21 updated東京近郊、緑豊かな団地を再生。
60年代、都市郊外にはたくさんの団地が建設されました。日本版ユニテ・ダビタシオン(集合住宅)とでもいうような同じ形の団地が立ち並ぶ様子は、いまでは郊外の見慣れた風景の一つです。ここ数年リノベーション技術によってこれらの団地群がスタイリッシュに再生され始めました。小部屋がいくつもある間取りの壁を取り払うと2方向に大きな開口部があり、50年かけて大きくなった木々の緑は目に美しく心地いい風が抜けます。
ここSさん夫妻の新居も渋谷まで25分の最寄り駅から徒歩5分の団地の一室。聞けばもともと同じ団地の別の部屋に10年近く住んできたとのこと。環境の良さ、隣人たちの良さ、アクセスの良さ、子どもの学校のことなどを含めて同じ団地内で新居を探していたところ昨年この部屋と出会いました。ふたりはもともと青山『メゾンルーバス』オーナーの小林有樹子さんと交友があり、物件を決めたとき有樹子さんにDEN PLUS EGGを紹介され、すぐにフルリノベーションを依頼することを決めました。
機能とデザインの両立を。
大きなLDK&書斎は北に腰高の窓が2つ、南にはベランダのある開放的で広々とした空間。北側のキッチンと書斎は、収納と仕切りを兼ねる天井までの造り付け棚でゆるく仕切られ、南側のリビングダイニング部分との境には吊り扉をつけて仕切ることもできる仕様に。大きな寝室には、ロフトタイプのベッドをつけて親子3人で一緒に過ごします。
今回のリノベーションのキーワードは「機能とデザインの両立」です。約2年半をロンドンで過ごした奥さまはアンティークが好きで、自らも手仕事をしているため手づくりの良さを大切にするものを好みます。一方、ウェブデザイナーのご主人は、北欧の建築家やモダンデザインが大好きで、機能美を重視するデザインを好みます。オフホワイトのシナ材を室内ドア、キャビネット類、飾り棚などメインの木材として、キッチンドアとフロアにオーク材をプラス。見切りや金具に真鍮でアクセントを加え、キッチンと洗面にはアルチザンタイルをあしらいながらも、壁は明るい白とグレーがかった白で統一。シンプルだけど温かみのある、使い込むうちに良さの増していく空間ができあがりました。
「シナ材はプライウッドの椅子などに使われるリーズナブルな木材ですが、無塗装だとサラサラしてきめ細かくとても肌触りがいいんです。使い続けていくうちに、なめし皮のようにタン(色)になっていくのが楽しみです」とご主人。シューズボックスや廊下の物入れのドア、寝室のドアやトイレのドアまですべて同素材同系色で統一され、少しずつ異なる真鍮の取っ手によるデザインの遊び心がいい雰囲気です。
暮らしながら少しずつ部屋づくりもアップデート。
そして今回、機能的に一番こだわったのは「暖かい部屋」へのリフォームです。外壁に接する全壁面の内側に断熱材を貼って壁を厚くし、窓をすべて二重サッシに付け替え、フロアも断熱効果を重視したタイプを選びました。昨年9月に入居して一冬をここで過ごしたふたりは、「今年の冬は寒さをまったく感じずに過ごすことができました」ととてもうれしそう。ふと見るとカーテンレールも二重になっているのだけれどカーテンがかかっていません。その理由を尋ねると、「どちらの窓からも緑が見えて、隣の棟までは距離があるので目隠しをする必要があまりないうえに、部屋も暖かかったので」と奥さま。見るとキッチンの窓から見える隣の棟ははるか遠くて前には緑がいっぱい、そしてリビングダイニングのベランダの向こうには北欧かと見まちがうほど大きなもみの木が。また断熱リフォームにより冬も部屋が暖かく、カーテンで窓からの寒さを防ぐ必要もないのだと言います。
撮影にお伺いした日は、新しいオーダー収納の打ち合わせの日でもありました。「すべてを取り払ってリノベーションしたので、収納が少し足りなくなりました。主人も私もものが捨てられないタチなんです」と笑う奥さま。「昨年からこの部屋で過ごして、天井までの造作家具で収納スペースを増やしたいと思いました。部分的に自分たちで買い足した家具もあったのですが、やっぱり扉やキッチンキャビネットと同じ素材で家具をつくるのが一番美しいし、収納力もあることがよくわかりました」という。
「できあがりは想像以上でした。以前の部屋でとても嫌だったのは茶色い長押(なげし)と古い壁紙。おかげで部屋は暗いし雰囲気も悪かったんです。この部屋は天井も壁も明るい白色にしてすべての場所がとても明るく、LDKに壁がないので広々としていて、リモートで家族3人がみんなLDKで仕事や勉強をしていても、それぞれのパーソナルスペースを確保できて本当に快適です」と奥さまが一番うれしそう。「いまキッチンの仕切り棚の奥に開口部をつくって、ものを渡せるようにできたらいいなぁと考えています。いまも十分ステキですけど、少しずつ改善を加えていくのも楽しみですね」という。