ATELIER DEN PLUS EGG
Daja
松江 2021 /Jul/ 30 updatedハマスホイの光と影を感じる調和のとれた空間。
ハマスホイとダジャバランス。
「『リリーのすべて』という映画を観たとき、その空間の美しさに圧倒されました。調べると監督が19世紀デンマークの画家ハマスホイの絵画の風景を映画の中で再現しているとわかり、ハマスホイのことを知り日本初展示会の図録を買い求めました。するとその絵の中には柔らかい光と影に彩られた素晴らしい空気感を持つ世界が広がっていて、ずっと求めていたものに出会ったような気持ちになりました」と話すのはダジャのオーナー板倉直子さん。「そこでリニューアルのための初めてのミーティングの前に、担当のDEN PLUS EGGのYさんにそのことを伝えると、ミーティングまでにその図録を読み込んでプランを提案してくれたんです。そのプランを見たとき、もうまな板の鯉になろうって決めました(笑)」。
奥行きのある店舗の突き当たりにある大きな窓は西向き。午後になるときつい西陽が差し込みます。その西陽の印象を和らげるため、窓側に明るく陽のあたるナチュラルな空間をつくり、メインのフロアはその小部屋越しの光による陰影を楽しめる落ち着いた空間にすることがリニューアルの一番大きなテーマ。メインのフロアには壁いっぱいの大きなシェルフを設置。これは近年直子さんが力を入れている芦屋Uf-fuの紅茶をディスプレイすることと、カウンター越しに対面販売をしてお客さんとコミュニケーションを取りやすくするためのもう一つの大きなテーマです。
2枚のアンティークドアを壁いっぱいのオーダーシェルフの両サイドにあしらったカウンター後ろの壁面は、アンティークと新しいものという時間の差を超えたアルティザン魂の共演。100年近く前のドアに掘られた模様とシェルフの角に施された木彫細工はどちらもため息のでる職人技。古いものと新しいもののバランスがとてもいい、直子さんが特に気に入っているディテールの一つです。
「古いものと新しいもの、重さと軽さ、陰と陽、何事もバランスが大切だと思います。わたしは“ダジャバランス”と呼んでいるのですが、何かにこだわりすぎて狭くなりすぎてもいけないし、多くのニーズすべてに応えようと間口を広げすぎるのも良くない。店舗デザインも同じで、空間だけが素晴らしくても服が入ったときにそれが生きなければ意味がないし、お互いが高め合ってこそいいデザインだと思うんです。内装デザインと家具や什器、流れている音楽、光、そしてダジャの服と調和が生まれ、お客さんの五感に訴える何かが生まれるといいなと思っていました」という直子さん。
「今回のリニューアルは、そのバランスがとてもいいと思います。グレーの壁と木を基調にしたメインフロアはオンタイムを意識したスペースで、光たっぷりの奥の小部屋はナチュラルクリームの壁とマットブラックのハニカムタイルのフロアでプライベートを楽しむリラックスした空間になっています。小部屋は光がたっぷりでとても心地いいので、お花や紅茶をもっと知ってもらうイベントなども開催しようと水場を設置しました。そこには、デザインがかわいいからと水栓を3つもつけてくれました(笑)。でもそのうちひとつは紅茶を入れるための浄水なんです」。
ヨーロッパの薬局やビスポークのような印象を持つ凛とした印象のメインフロア、南フランスの別荘のサンルームを思わせる奥の小部屋、「店頭に立っているスタッフも行き来すると楽しいかなと思って」と言いながら、その変化を一番楽しんでいるのは直子さんのようでした。「アンティークも木工細工もタイルもリネンカーテンもすべてのディテールが美しくて、毎日きゅんきゅんしていますよ」。
DEN PLUS EGGとの出会い、現場監督との楽しい日々。
ダジャは2019年に迎える30周年を機に、オンライン販売を増やして実店舗の割合を少し減らそうと考えました。スペースを2分の1にする代わりに、セレクトを絞ったバランスのいいお店となる「ステキに小さくする」をテーマにリニューアルしようと決めました。けれど、ダジャの長い歴史の中で何度か改装を繰り返してきたものの細部まで納得できる改装ができた経験がありませんでした。
また2015年の雑誌『大人になったら、着たい服』の記事掲載をきっかけに、直子さんの交流関係や内面が大きい変化を遂げ、ダジャのイメージはより研ぎ澄まされたものへと変化を遂げている最中でもありました。
2017年、前の年に山陰で開催された『BEAU PAYSAGE』CD BOOKお披露目会で知り合ったresonance musicが主催するコンサートに出かけ、音楽を軸とした交流を深め「地中海の青」というイベントを開催することに。その後もそのイベントをきっかけにさらに増えた仲間たちと30周年にかける思いを共有していきました。
その仲間たちと深いつながりにあったのがDEN PLUS EGG。東京・伊勢丹でのポップアップショップの際に、DEN PLUS EGGが手がけた千駄ヶ谷のビストロ『コンカ』で食事をしたことをきっかけに、苦楽園のオフィスをいつか訪ねようと考えました。
2018年の春、ふらりと苦楽園のD+E MARKET(DEN PLUS EGGの販売部門)を訪れたとき、偶然直子さんの仲間のひとりとDEN PLUS EGGのYさんが打合せをしていてばったり遭遇、そのまま一緒にD+E MARKET各店を一緒に回る流れになりました。FLUFFY AND TENDERLYでリネンを見て、D+E REVIVALで山積みのアンティーク家具を見て、Yさんと話すうち直子さんの中ではリニューアルのイメージがはっきりとした輪郭を帯びてきたのでした。そして冒頭の初ミーティングのエピソードへとつながっていきました。
2019年の初夏にはプランが固まり工事が始まりました。すると現場監督としてお店にやってきたのは、「地中海の青」イベント会場を木々で装飾してくれた造園家の上田学さんだったのです。上田さんは建築設計士と造園家の2つの顔を持ち、DEN PLUS EGG立ち上げ当初から深く関わってきた人でした。
「わたしは工事現場も毎日見ていました。上田さんと東京から来た職人のみなさんが毎日とても楽しそうに音楽を聴きながら仕事をしていて、DEN PLUS EGGの“愉快な仲間たち”って呼んでました」と直子さんは言う。「お店ができあがりかけていたある日の夕方いつものように現場に行くと、ちょうど陽がふわっと入ってきて、あまりにきれいで鳥肌が立ったんです。ステキなお店になるって確信した瞬間です」。そして夏の終わりに楽しい日々も終わり彼らは去っていき、素晴らしい空間が残りました。
空間がつくる新しいダジャの未来。
最後に直子さんに、今回のリニューアルを通して何が変わったのかを尋ねました。「今回“ステキに小さく”するリニューアルをしたことで、何が好きかを改めて考え直すことができ、自分の世界観を突き詰めていくという素晴らしい機会を与えてくれました。
それは例えば、季節を感じる植物を飾ること。これは『地中海の青』の植物装飾に感銘を受けたことや松江にお住いのフォトエッセイスト椿野恵理子さんから野花のことを教わる機会があり、野の花を飾ることでショップの中にいても季節の移り変わりを感じることができるんだと気づいたことが大きいです。奥の小部屋にはいつも野で摘んだ花を飾っています。
そして音楽をまた楽しめるようになったことも大きなことです。若いころに聴いていいた音楽は懐かしいけれどいまの自分にフィットしない。何を聴いたらいいのかわからなくなっていたときにresonance musicの音楽と出会いました。改めていまの自分にちょうどいい心地いい音楽、音楽家と知り合え、お店でもそれを伝えることができてとてもうれしいです。お店にはsonihouseのViewスピーカーで控えめな音で音楽を流しています。
そして何より今後ダジャがしていきたいことは“ものの背景を伝えること”です。すべてのものの後ろにはそれをつくっている人がいて、物語や思いがあり、着る人や使う人にそのストーリーは伝わっていくものだと思います。これからは“伝えること”を仕事の一つとして捉えていきたいと思っています」。
この空間もまた、幾重もの偶然や必然の出来事が重なってできたつながりとそこから生まれた信頼でできているようです。
Daja
島根県松江市学園南2-12-5 HOYOパークサイドビル1F
お問い合わせはこちらから